SIXIÈME GINZA MAGAZINE 027

健康に生きる幸せが、美しさ(後編)

Interview with KENJI KAJIWARA

各方面でご活躍されているSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢やマインドなどをお話しいただくこのコーナー。今回は、SIXIÈME GINZAのMDディレクターの笠原と佐々木が、ニールズヤード レメディーズ社長の梶原建二さんにお会いしてきました。

英国のオーガニックブランド「ニールズヤード レメディーズ」の日本展開を30年前に始められた梶原さん。崇高な理念と哲学に基づくクオリティの高いブランドとしてオーガニック愛好者のみならずコスメや香り好きな人々を虜にしているニールズヤードですが、1985年当時の日本ではオーガニックはもちろん、健康と美が繋がっているという概念すらありませんでした。今の時代を象徴するムーブメントであるオーガニックやサステナブルの立役者でもある梶原さんを突き動かしてきたものとは何でしょうか。本当の美しさ、日本人の食への提議、50代からの生き方について語っていただきました。

 

50代からの人生

60代になられた梶原さんに50代へのアドバイスをうかがってみました。これからはどのようなマインドで人生と向き合っていけば良いのでしょうか。 「50代になると、全ての選択肢が減ります。体力がない、気力が落ちる、ホルモンバランスが崩れる、お金もまだ子供に意外とかかるなど制約もあります。そこで大事なのはどういう選択をするか、ということです。選択肢が減ることを謙虚に受け入れて、自分が何に幸せに感じるかという基準を持つべきです」。

何に幸せを感じるか、は人によってさまざまですが、1人では本当の幸せを体感することは難しいことです。「幸せは対人関係で決まると思っています。例えば誰かに感謝されることは嬉しいし、さらに嬉しいのは自分のライフスタイルが誰かのロールモデル(模範、お手本)になっていると感じる時です。50代にもなれば、自分のためだけに生きるのではなく、周りに配慮した生活をした方がその先の人生が豊かになるのではないでしょうか」。

 

サステナブル

近頃ファストファッションやラグジュアリーブランドがサステナブルであることを重要視し始め、環境に対する持続可能な取り組みをアピールするニュースが連日のように流れて来ます。素材を得るために動物を殺してはいないか、生産者の労働環境への配慮、などサステナブルの定義はいくつかありますが、ファッション業界でもようやくその意識が高まってきました。30年以上前からサステナブルであることを哲学としてきた梶原さんはどのように思われるのでしょうか。

「今、消費者の方が生産者や売り手側よりも、様々な環境問題について考えて始めている時代だと思います。大きなファッションブランドがこの環境問題について取り上げてくれるのは素晴らしいと思います。しかし、それはあくまでも製品を販売して作るブランドとしてであって、社員という一番重要な要素が置き忘れられていると思います。ぜひ“サステナブル”を謳い文句で終わらないように、そして消費者に支持されるブランドとなるためにも、社員が本当にサステナブルを実践している会社だなと感じるような機会や経験、そして学びの場を作って欲しいと思います。これからは“素敵なブランドの社員こそ環境に一番精通している” ということが通説になれば、素晴らしい時代になると思います」。サステナブルであることを単なるトレンドとして終わらせない、その信念を働く人々にも伝え浸透させていくことが重要だとおっしゃいます。

高度成長期に子供時代を過ごし、学生時代はバブル全盛期だった今の50代。ブランドものを身につけ、高価な香水をつけて消費と夜遊びを謳歌してきた世代です。それが今になって幸せとは?と改めて考え、サステナブルな生活を始めるのは少々気恥ずかしさもありますが、梶原さんによると「別に早くオーガニックな生活を始めたからすごいとか、先駆者でなければということではありません。気づいた時に始めればいいんです。僕も30年前はタバコ吸ってお酒もたくさん飲んでいたけど、たまたま30年前にニールズヤードと出会っただけ。変わるのは、いつでもいい。今日からでも明日からでもいいし、一回変わればいい。僕も最初は素人だったし、今でもプロだとは思っていません」
今からでも変われる!前向きで寛容なお言葉です。

 

バンフォード

梶原さんが日本展開を手がけていらっしゃるもう一つのブランドが「バンフォード」。英国のサステナブルな有機農場「デイルズフォード」の創設者でもあるレディの称号を持つキャロル・バンフォードが、“肌につけるものは食べ物と同じくらい重要”だと考えたのがそのはじまり。広大な農場で育った食材を使った食事を出す高級レストランを始め、その後ファッションやスキンケア商品へと広げていきました。「元々は食からスタートしたブランドです。イギリスで最大の有機農場を保有していて、その広大な敷地の中に大きなホテルとレストラン、スパ、ショップ、サロンがあります。特にコッツウォルズショップは世界に一箇所だけの最高にラグジュアリーな場所で、顧客はオーガニックライフを好むアメリカとイギリスの富裕層です」。

フィロソフィーはニールズヤードと同じですが、バンフォードはさらに豊かさを感じる次世代のラグジュアリーを体現しているそうです。 「イギリス人は、ビジネスで成功するとオーガニック農場を持ちます。土が一番大事だと言っているのです。それが他の都市だとお金持ちが買うのは高層マンションや高級車になってしまう。Health is next wealth(健康こそが次世代の富である)が、バンフォードのテーマでもあります」。

山の向こうにはきっと素晴らしい世界が

梶原さんの今後の夢は何でしょうか。「目下の課題は日本のフードロスをどうするかです。減らせるとは思っていないのでリサイクルして有効活用したい。食品ごみを紙に代わる次世代の緩衝材に変えられないかと思い試案中です」。常に何かにチャンレンジし、0から1を生み出すことを楽しみとするパイオニア精神こそが梶原さんの魅力。「田舎育ちの無一文、ある社員からは、わらしべ長者と呼ばれました。当初は国民金融公庫から借りた資金をもとに、会社を起こして増やしていった。だから、新しいことを始めることは誰にでも出来るんですよ」。
18年前の青山にエコビルを建設し、表参道の裏通りにニールズヤードの世界観をつくられた理由としては「オーガニックを華やかな表舞台にあげるのが一番いいと思ったからです。エコビルには4トンの貯水槽があり、建築資材も全てエコ素材。スタイリッシュでカッコよくてみんなが使いたいと思うものを作りました」。
新しい世界に一歩踏み出す不安や警戒心を感じられないのはどうしてなのでしょう。それは富士山の麓で育った幼少期からずっと続く気持ちでした。「山に囲まれた田舎で育ち、いつも家の物干し台から周りの山々を眺めていました。山の向こうには僕の知らない別世界があって、そこにはもっとエキサイティングで素晴らしい世界があるはず。そこに行って経験してみたい!と思っていました。その気持ちは今でも続いていて、次々とやりたいことが出てきます」。

梶原さんにとって、本物、一流、上質とは何でしょうか?
「その人らしく生きている人が本物だと思います。自分の良さを理解して、その人そのままだな!と感じさせる人が一流だなと思います。こうあるべき、という固定概念がなく、何かに執着することもなく自分を受け入れる。それが自然にできる人が一流なのだと思います」。

山の向こうにはきっと素晴らしい世界がある。そう信じて突き進む、冒険心に溢れる強く無垢な姿は開拓者そのものでした。

 

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NEAL'S YARD REMEDIES 代表取締役

梶原 建二(かじわら けんじ)

1956年生まれ。大学卒業後、上場企業に1年、輸入家具メーカーに1年勤務した後、24歳で世界中からデザイン性に優れた生活雑貨を輸入する会社を起業。15年後に閉鎖。85年にニールズヤード レメディーズを日本で販売開始。96年に日本初の直営店を恵比寿にオープンし、翌年ナチュラルセラピーセンターを開設。2003年に完成したエコロジカルな表参道グリーンビルは、2014年9月にニールズヤード グリーンスクエアとしてリニューアルオープン。ショップ、カフェ、スクール、サロンからなるビューティの発信地に。

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