SIXIÈME GINZA MAGAZINE 026

健康に生きる幸せが、美しさ(前編)

Interview with KENJI KAJIWARA

各方面でご活躍されているSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢やマインドなどをお話しいただくこのコーナー。今回は、SIXIEME GINZAのMDディレクターの笠原と佐々木が、ニールズヤード レメディーズ社長の梶原建二さんにお会いしてきました。

英国のオーガニックブランド「ニールズヤード レメディーズ」の日本展開を30年前に始められた梶原さん。崇高な理念と哲学に基づくクオリティの高いブランドとしてオーガニック愛好者のみならずコスメや香り好きな人々を虜にしているニールズヤードですが、1985年当時の日本ではオーガニックはもちろん、健康と美が繋がっているという概念すらありませんでした。今の時代を象徴するムーブメントであるオーガニックやサステナブルの立役者でもある梶原さんを突き動かしてきたものとは何でしょうか。本当の美しさ、日本人の食への提議、50代からの生き方について語っていただきました。

 

ニールズヤード哲学との出会い

20代で起業し、ダイソン、ファイロファックス、ボールペンのラミーなど大企業が扱わないような小さいながらデザイン性に優れた日常品を扱う輸入商社を設立・参画していた梶原さんは、昔から大のイギリス好きだったそうです。「1976年、私がイギリス留学していた頃はサッチャー氏が首相になる直前。デヴィッド・ボウイやクイーンが人気絶頂の時代で、音楽やカルチャーシーンが面白かった。とにかくその場に行かなくてはという気持ちでした」。本場イギリスの空気感を体感し、その後帰国して大学卒業後は一般企業に就職。すぐに転職してイタリア家具のイノベーターであるカッシーナに入社して人生が変わったとおっしゃいます。「素晴らしい家具デザインに触れることで刺激を受け、もっと生活を豊かにする新しいものを見つけて、世の中に広めていくことが自分の喜びなのではないかと気付きました。当時は実用性とデザイン性を兼ね備えた日常品はあまりありませんでした。使って美しいものは生活のクオリティを上げるはず、という気持ちが輸入商社を始めるきっかけになりました」。

イギリスで様々な商品を探されている中で、梶原さんはニールズヤードの創始者ロミー・フレイザー女史と出会いました。「1981年、ロンドン中心部のコヴェントガーデンに出来た英国初の自然薬局店(ナチュラルアポセカリー)がニールズヤード アポセカリーです。当時のコヴェントガーデンは、資本主義にとらわれない自由な発想で、次世代に残すものを作りたいというエネルギーを感じる場所でした。大量生産品やケミカルな食品・化粧品が全盛期だった時代に疑問を唱え、自然療法や有機栽培で野菜を育て、有機肥料で育った牛乳で作ったチーズを売る店などがそのエリアにはありました」。
ロミー・フレイザー女史の言葉に“本当の美しさとは、日々を幸せに暮らす人の健康で華やいだほほえみの中にある”とあるように、いきいきとした美しさは肌と体、心のつながりを大切に考え、総合的にケアすることで生まれるという哲学がブランドの根底にあります。「健康に生きることが一番幸せ、いうのがニールズヤードの考え方です。その幸せこそが美しさに繋がっている。健康は誰の手に委ねるものではなく、健康になりたいという気持ちが湧くかどうかが大切。その手助けをするのがニールズヤードの役目なのです」。

 

ニールズヤードの哲学と出会い、健やかな心と体を育むことで美しさが生まれるということを実感した梶原さんは、これこそ自分が突き進む道だと確信されたそうです。「健康と美容のつながりを知り、それはシンプルに生きることそのものだと実感しました。幸せに生きることを命題にしているブランドに共感して、日本に持って来ることを決心しました。答えのない命題ですが、以来ずっとこの志を大切にしています」。
80年代の日本では健康と美は全くの別物として捉えられており、健康について話すこと自体がタブーだったそうです。「だから僕はどこか病気だと思われていたみたいですよ(笑)。当時は健康について語るのは、病気の人だけでしたから。東洋思想の歴史を鑑みれば、本来は心と体のつながりは当然のはずなのに、それすら忘れ去られていた時代だったのでしょう」。

健康を語るのは世間から外れた人のように思われていた時代に、今で言う環境保全やオーガニックについて啓蒙活動されていた梶原さんですが、日本市場に受け入れられるためにビューティーやスキンケアという世界観にシフトチェンジすることで次第に国内でも人気になりました。「女性は美しくなりたいと思っています。毎日楽しく自分と向かい合えるもの、それがスキンケアです。香りでも癒されて、使い続けることで自分自身が変わったなと実感できます」。
オーガニックなスキンケアを使うことで変わった自分に気付き、そこから健康についても考えるようになる。ちょっとした刺激を与えてくれるのが自然療法なのです。

 

心と体は一緒

“あなたにとって美しいとはどういうことですか”という質問を、日本人女性とイギリス人女性に投げかけるアンケート調査を行った結果、驚きの違いが現れたそうです。「日本人女性が考える美しさは、色が白い、シワがない、シミがない、といった容姿に関する回答でした。一方イギリス人女性が考える美しさは、元気なこと、前向きでいること、明るくいること、など殆どが内面的なことやマインドについての回答でした。この結果を見て、いかに日本人女性は消費のマーケティングにより、表面的なことに囚われているのかを知って愕然としました。心と体を極端に切り離して考えすぎています」。イギリスは古くからハーブ大国として知られています。体が不調なときにはメディカルハーバリストに相談し、体質に合ったハーブを処方してもらうなど自然療法が一般に浸透しています。アロマテラピーで心身の不調を癒すなど、心と体を一緒に考えるライフスタイルが当たり前のようです。

「心が病んでいるときは肉体も病んでいるはずなのに、私たち日本人は“少々のことは我慢する” という文化の中で育ってきているので、心が病んでいるのに気がつかず、そして気にせず、大きな病気につながることもあります」。
ストレスが病因になるということが、やっと最近認められるようになりました。心の状態がどのように体の細胞に影響を与えるのかが判明したこともあり、自然療法も科学的に裏付けされるようになってきました。「自然療法の世界では、薬や手術ではなくちょっとした刺激を与えることが大切。みんなが健康で美しく生きたいと思っているはずなので、ニールズヤードの店では何かに気づいてもらえたら嬉しいです。何も買わなくても、笑顔で帰ってもらうことを大切にしています」。

日本人のお客さんにはスキンケアの人気が高いですが「スキンケアの中にはエッセンンシャルオイルが入っているし、ニールズヤードのポリシーが全て入っています。例えば合成香料や遺伝子組み換えのもの、シリコン、パラベン石油系鉱物油、フタル酸など、肌に負担がかかる成分は一切入っていません。リサイクル可能なボトルを使用し可能な限りプラスチックパッケージや包装はしていません。1つのスキンケア商品にも、哲学すべてを詰め込んでいるのです」。

健康で幸せに生きることで美しさが生まれる。心と体をトータルに考えているからこそ、サロンもあればスクールもあり、レストランもある。心があって体がある、体があって心がある。当たり前なのについ忘れがちな大切なことを気づかせてくれる存在です。

 

食べるものを選ぶ

表参道のニールズヤード グリーン スクエアの一角にある「ブラウンライス」では、ニールズヤードが提案する新しい和食がいただけます。食材は直接生産地を訪ねて納得いくものを仕入れ、旬の食材のおいしさを引き出すために料理はもちろん味噌やタレなどの調味料もすべて手作り。食材本来の旨みと栄養を丸ごと食べる“ホールフード”を実践していて、野菜の皮や茎も丁寧に調理されています。「内からキレイになることが大事です。毎日食べるものをニールズヤードと一緒に紹介するためには和食がいいと思いました。日本人が自分たちのカルチャーを誇りに思わないのは残念なことです。伝統的な発酵食や伝統食の良さを再発見する場になるようにという想いで店を作りましたが、最近は和食が遺産登録になるなど話題となり、世界中の人がブラウンライスに来てくれるようになりました」。

有機栽培の野菜、玄米、そして伝統的な発酵食品。このようなメニューを食べていれば健康で美しくなれそうですが。「オーガニックなものを食べたからといって健康にはならないですよ。お酒を飲んで白砂糖が入ったスイーツを食べて、夜遅くまで起きていれば健康にはなれません。ただオーガニックなものを食べるというよりも、自分の生活の中のチョイスを変えることがオーガニックな生活に近づくことなのです」。

生活の中のチョイスとは、具体的にはどのようなことでしょうか。
「食べ物は体を作るものなので、細胞が生まれ変わる28日間は食べてはいけないものを避けてみてはどうですか。食品のことを勉強して、せめて避けたいものは食べない、それだけで体は変わるはずです。食べ物を選ぶことは、高い化粧品を買うよりも先に出来ることです」。なるほど、外食は自分でコントロール出来ませんが、せめて自分が選ぶものは自分の意思で選ぶべきだと梶原さんはおっしゃいます。「オーガニックは高いので毎日有機野菜ばかりを食べるのは現実的には無理です。それよりも、砂糖を減らす、マーガリンや脂肪酸、加糖ジュース《※高果糖コーンシロップ》はやめるなど出来ることをしましょう。何もやっていない人はハッキリと体調が変化するはずです」。

日本の外食は欧米諸国に比べて安い、とよく言われています。コンビニや大手チェーン店も多く、全体的に安くて美味しいが当たり前になっていますが、日本人の食意識に梶原さんは警鐘を鳴らされます。「日本は、食の観点では後進国です。美味しいか、まずいか、新しいかだけが重要視されています。野菜や肉などの食材に関しても、外国産は危険で国産なら大丈夫という洗脳もあると思います。しかし世界的に見ると日本での農薬使用量の多さは上位に入り、オーガニックに対する規制も緩いです。消費者が裏ラベルを見ないので、ショートニングなどトランス脂肪酸入っていても気にしないのは嘆かわしいことです」。食品表示を見ず、添加物を気にしない。これは他の先進国では信じられない消費行動だといいます。まずは意識を持つことがスタートなのでしょう。

ブラウンライスには世界中からオーガニック&ヴィーガンファンがこぞって駆けつけていると聞きますが、「本当は、食生活に気づかって健康的なものを食べている人には来てもらう必要はないのです(笑)。それより、普段ジャンクなものを食べている人や、外食が多くてバランスを崩している人が、ブラウンライスで食事して体調が良くなってくれればいい。和食を食べると調子が良くなると気づいてもらえたら嬉しいことです。ブラウンライスはここ1店舗だけ。これは僕のポリシーです」。1店舗だけのブラウンライスに全世界からきてもらいたいから、世界観を濃くしておきたいという梶原さんの強い想いの現れ。何を達成したいのかが明確だからこそ、1店舗を守るのが大切なのです。

 

インタビュー後半へ続きます

 

NEAL'S YARD REMEDIES 代表取締役

梶原 建二(かじわら けんじ)

1956年生まれ。大学卒業後、上場企業に1年、輸入家具メーカーに1年勤務した後、24歳で世界中からデザイン性に優れた生活雑貨を輸入する会社を起業。15年後に閉鎖。85年にニールズヤード レメディーズを日本で販売開始。96年に日本初の直営店を恵比寿にオープンし、翌年ナチュラルセラピーセンターを開設。2003年に完成したエコロジカルな表参道グリーンビルは、2014年9月にニールズヤード グリーンスクエアとしてリニューアルオープン。ショップ、カフェ、スクール、サロンからなるビューティの発信地に。

https://www.nealsyard.co.jp