SIXIÈME GINZA MAGAZINE 041

手から生まれる偶然の形。
自然体であることを大切にしたい

Interview with mimosa

mimosaは、保坂安美さん(写真中央)、伊藤一実さん(写真左)阿部紗矢さん(写真右)による空間装飾を主に行なうクリエーションチーム。お花や植物をモチーフにした特別な空間演出をされています。ペーパーフラワーを使ったドラマチックなウィンドウディスプレイ、野花を可憐に束ねたような素朴なブーケなど、その表現方法はさまざま。生花とハンドで作った素材を組み合わせて生まれる、優しさに溢れた独特のファンタジーが見る人をわくわくさせます。

今春から、SIXIÈME GINZAストア内の空間演出を手掛けられているmimosaの皆さん。大きなクリスマスローズの花を中心にした植物の装飾が、店を訪れた方々を自然の世界へと誘ってくれています。よく晴れた爽やかな朝、銀座でmimosaの皆さんにお会いしました。おっとりと柔らかな雰囲気、笑顔で話す姿はまるで3姉妹のよう。お仕事のこと、いつも大切にされていることなどを伺いました。

植物やお花をモチーフに、体感できる空間演出を

武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科の同級生である保坂安美さん(以下、保坂さん)と伊藤一実さん(以下、伊藤さん)のお2人で2015年にスタートしたmimosa。そのはじまりは、仲良し2人の「手を使ってものづくりしたい。もっとのんびりやりたいね」という会話からだったそうです。

保坂さんが当時のことを振り返って話されます。「大学卒業後は別々の会社に入りました。私はディスプレイの会社、伊藤はグリーンの装飾の会社に就職しました。会社帰りによく渋谷で会ってはお互いの仕事の多忙ぶりを報告しあっていました。私は、自分で会社をやりたいという思いがあったので、いつも伊藤さんを誘っていました。当時はデザイナーという立場で手を動かして作業することが少なかったのですが、自分の手で何かを作って、自由に空間演出をする仕事をしたかったのです」。

 

自分の手でものづくりをしたいという強い気持ちとともに、mimosaの立ち上げには、どうしても伊藤さんが必要だったそうです。

「伊藤は、私と同じく植物やお花が好きなんです。学生時代から2人の会話の中には植物の名前がよく出てきました。私は都内で育ったのですが、両親がキャンプや山登りに連れて行ってくれて自然と触れ合う機会が多く、植物や花には幼い頃から親しんでいました。花や植物が好きな私たち2人、一緒に空間演出の仕事をしたいと思っていました。
伊藤は色彩感覚にも優れていて、自分にはないものをたくさん持っている才能溢れる人です。絶対に一緒にやりたい!としつこく誘い続けていました」。

すると、伊藤さんが苦笑いしながら「はい、本当にしつこかったですよ。それで、では一緒にやろうかなと(笑)。私はmimosaを立ち上げる前は、植物やお花を専門にしたディスプレイの会社にいました。お正月やクリスマスなどのシーズンディスプレイをメインに手掛けていて、めまぐるしい日々を送っていました。いつも時間に追われていて、丁寧にものを作ったり大好きなお花を愛でたりすることができず、やりたいこととのギャップを感じていた頃でした」。

植物を使って手を動かして、自由に空間作りをする。そんな夢に向かってmimosaは動き出しました。初めは生花だけを使ったディスプレイからスタートし、その後ご自身たちらしい空間演出の方法を模索していく中で、mimosaの代表的な作風であるペーパーフラワーに辿り着いたそうです。

「mimosaスタート後、一年くらいはケータリングの周りのお花のディスプレイなどをしていました。仕事をしている中で、実物サイズの小さな花でできることには限りがあることが分かりました。広い空間の中では、小さな植物だと演出に生かし切れないのです。お花を使った、もっと自分たちらしい空間演出の方法があるのではないかと気づきました。そこで、もともと手を動かすことが好きだったので、ペンや紙やハサミといった身近な道具を使って花を作り上げていったのです。リアルサイズの小さいお花では表現し切れない、もっと体感できるような空間作りを求めた結果、ペーパーフラワーに行き着きました」と保坂さん。

 

無理をしない。自然体でいることを大切にしていこう

紙を使った花なのに、どこか有機的な雰囲気。人工物だと分かっていても、なぜか手の温かみを感じる作風は、どこから生まれているのでしょう。ペーパーフラワーの製作工程を保坂さんに伺ってみました。

「ペーパーフラワーの工程は、まずモチーフとなる植物を分解して、その構造を観察することから始まります。リアルサイズの花を分解したり、図鑑を見たり資料をみんなで集めたりして、様々な種類の花を研究します。花びらの形、色のグラデーションなどを細かく理解した上で、それを大きくしたときに見る人がどう感じるかを想像しながら、部分的にデフォルメしたり差し引きしたりしてディスプレイする時の形を作っていきます。お花そのものをリアルに作るというよりも、手作業によって自分たちらしさを表現することを意識しながら作っています」。

自分たちらしさ、はどのようなところなのでしょう。

SIXIÈME GINZAのクリスマスローズも、そんな偶然できた美しい形を大切にして積み重ねた結果、完成したものです。

「あの大きな花も、完成予想図は頭の中では描いているつもりなのですが、最終的にどのように仕上がるかは作り始めた時には想像がつきません。手で作って色を塗っていって偶然形ができることもあるし、組み合わせることによって良くなったねという発見も制作過程の中でたくさんあります。そういう偶然や発見を大切にしています」。

作風からも、偶然を大切にする気持ちがあるように、mimosaが仕事をする上でもっとも大切にしていることが「自然体であること。無理をしないこと」。私生活が充実していれば、それが仕事にもつながり、生かしていくことができる。

「自然体で無理せず、いろんなものを見て、家族との時間も楽しく過ごすことが一番大切だと思っています。普段の仕事の仕方は、なにか仕事が入った時だけ、アトリエで作業する感じです。プランニングの段階では3人が集まって話し合い、アイデアを出します。SIXIÈME GINZAに置いてあるような大きなサイズのものは、パーツごとに作るので、担当分けをしてそれぞれが各パーツを製作します。花のパーツで担当分けしたり、花ごとに担当したりなど。それらの進み具合は各自のペースで行なっています」(保坂さん)。

保坂さん、伊藤さんともに小さなお子さんのお母さん。ライフスタイルの変化とともに仕事のスタイルは変わったのでしょうか。

「子供が生まれて、ライフスタイルには大きな変化がありました。視野が広がったように感じています。子供と生活している中で、子供の時のものの見え方を思い出しました。大人にとって“お花”といったら綺麗なお花、葉っぱといったら緑。という固定概念がありますよね。けれど、一緒にお散歩していると、子供は枯れた葉っぱを見て楽しそうにしていたり、綺麗だと感じたりしている。それを見て、こうでなくてはいけないという考えがなくなりました。SIXIÈME GINZAのディスプレイでも、あえて枯れた葉っぱを作って自然な感じを表現しています。枯れているのはいけないと思っていたけれど枯れているのもきれいだなと今は感じています。色の見え方も変わってきました」と育休から復帰したばかりの伊藤さん。「コロナで家にこもることが多くなると、今まで見えなかったことが見えたり、気づいたりします。ディスプレイを見て、身近な自然を発見して欲しいという気持ちがありました」。

子育てもあって、お仕事でも活躍中のmimosaの皆さんですが、「それでも、仕事は楽しくなくなってしまったら、意味がありません。会社員時代にハードな仕事をしていたからこそ、自分たちの仕事はマイペースでいきたいのです」と伊藤さん。アトリエでは製作活動の途中で必ずおやつタイムをとり、お茶を飲んでゆったりする時間を大切にしているそうです。

mimosaには2年前から新しい仲間、阿部紗矢さん(以下、阿部さん)が入られました。もともと布を使ったお花のアクセサリーを作っていた阿部さんは、花の作りかたや布の染色の技術も持つ即戦力として、mimosaの活動に自然に馴染んでいったそうです。今回のディスプレイでは、クリスマスローズの周りに咲くスズランの花を担当されました。

夏からのSIXIÈME GINZAストア内の空間演出。「自然との共生」というテーマの中で、花をあえて大きく表現することで今まで見えなかったことが見える不思議な感覚を味わえます。巨大なクリスマスローズと小さなスズラン。これはリアルなのか非現実なのか、見る人をある種のファンタジーに引き込んでくれます。

「まず1回目のディスプレイがクリスマスローズの蕾。この後どんどん大きく開花していきます。コロナで外出もままならない中、せっかくきていただいたお客様が植物を身近に感じられるように。お店に入ることで体感できるくらいのスケール感で表現しました。自分が小さくなったのか、植物が大きくなったのか見た瞬間に空間に入り込む感覚で店内を回って欲しいなと思いました」と保坂さん。
「この後お花は大きくせり出して開花して、最後はタネを生む。蕾、開花、タネまで、毎回お店に来るたびに変化を感じられます。スズランの花びらの中にも少ししおれているものもあります。そういう、自然の本来の姿も伝えていきたい。きれいな花だけを作ることが多いのですが、今回のディスプレイのように枯れたものを入れることでさらに美しく有機的に見えるのです」。

mimosaの皆さんにとって、一流、本物であることとは「自分らしさをしっかりわかっていて、それを具現化して表現できる人が一流だと思います。綺麗なものだけでなく、いろんなものに目を向けられて、自然な形で表現し作り続けている人は本物だなと思います」。

自然体であること。それはmimosaの仕事のスタイルでもあり、作品の根底に流れるテーマでもあります。手から偶然生み出される美しさを大切に、植物の自然の形を愛でながらクリエイションする。優しさに溢れた、独特のファンタジーは彼女たちのたおやかな想像力の中から生まれているのでしょう。

mimosa(ミモザ)

2014年設立。
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の同級生だった保坂安美と伊藤一実が、2015年に立ち上げたフラワークリエイションチーム。花や植物をモチーフに、空間装飾を手がける。ウィンドウディスプレイやイベント装花、ウェディング装花、ワークショップ等を中心に活動中。

https://www.mimosa-design.com/