SIXIÈME GINZA MAGAZINE 040

カシミアをくれたモンゴルの土地と
遊牧民に恩返し(後編)

Interview with Oyuna Tserendorj

OYUNA(オユーナ)は、イギリス・ロンドン発のウィメンズウェア、ユニセックスウェア、ホームコレクションのブランド。デザイナーであるオユーナ・セレンドルジュさんの故郷、モンゴルの壮大な自然からインスパイアされた優美なコレクションが新たな豊かさの価値を生み出しています。コンテンポラリーで洗練されたデザインは、最高級カシミアのしっとりとした柔らかさを際立たせ、私たちを魅了してやみません。モンゴルの遊牧民の生活向上や、環境保護の活動にも積極的なオユーナさんに、ブランドのこと、モンゴルへの思いなどについて伺いました。

Q   どうしてカシミア素材に特化することになったのでしょうか?

大体のモンゴル人にとって一番身近な存在なのがカシミアなのです。ロンドンに住み、故郷と離れることで、さらにモンゴルと強く繋がっていたいという気持ちになりました。もしも、モノづくりとは関係のない職業についていたらモンゴルと繋がっていることは難しかったかもしれませんが、私はデザイナーで、幸せなことに製品を作る仕事なのでモンゴルとの関係を保つことができています。ラッキーです。

Q   モンゴルではどのような生活をされていましたか?遊牧文化にルーツがあると伺いました。

全てのモンゴルの人は遊牧文化にルーツがあります。私の父も遊牧民で、彼が10歳の時くらいの時の写真には、草原の中の伝統的なゲルの中でキャンドルの灯火で本を読んでいるものがあります。その後彼は大統領の顧問弁護士、内務長官となり、都会に移ったのですが。そして私はモンゴルの都市部で生まれて、都会育ちです。なので、モンゴルの人はほとんどが3〜5歳には馬に乗れるようになるのに、私が馬に乗れるようになったのは24歳くらいの頃でした。

Q   モンゴルで育ったオユーナさん、故郷の文化は自身のクリエイションにはどのような影響を与えていると思いますか?

素材や自然をリスペクトする気持ち、だと思います。自然が与えてくれる素晴らしいものが、モンゴルから得るインスピレーションであり、それがOYUNAのブランドの世界観に影響していると思います。

Q   フォルムやカラーをデザインする上での考え方やプロセスを聞かせてください。カシミアというソフトな素材でありながら、構築的な雰囲気がありますね。

最初に行ったブダペストの学校では、洋服作りの技術的なことを学びました。そこでデザインのテクニックは十分に学んだので、その後はロンドンの芸術学校セントマーチンズでプロダクトデザインを学びました。一年をかけてロンドン中のギャラリーや美術館を周ってインスピレーションを得ていました。当時はとにかく、クリエイティブな作品に渇望していました。コンテンポラリーアートや抽象芸術の考え方が私の愛するものであり、そんなコンセプショナルな姿勢とアートのマインドをOYUNAのデザインに生かしたいといつも思っています。カシミアというソフトな素材でありながらも、構築的で、建築的な空気感のあるデザインにしたいと思っています。

Q   OYUNAを着る人にはどのような気持ちになって欲しいですか?

OYUNAを着て、心地よさを感じて欲しい。けれど、部屋着やラウンジウェアには見せたくないのでデザインは気遣っています。OYUNAを着ていることで内面から静かな自信がわき、力づけられるような服であって欲しいです。

Q   今後ファッションを生業とするメーカーやお店はどのようにあるべきだと感じられますか?

地球での人間の行動が今回のパンデミックに繋がっている部分も大いにあると思います。その中で、ファッションも公害の一因となってきたことは否定できません。今こそ、ファッション産業に関わる人々は正しい選択をする時期に入りました。デザイナー、メーカー、そして消費者も世界がよい方向に向かうために動くべきです。製品は世界がより良くなるために作らなければなりません。地球はとても小さいので、どこかの国が「私は関係ない」と言って環境問題を無視することは出来ませんし、一つの家に皆で住んでいるわけですから一人の住民が悪さをしただけですぐに影響が出てきてしまいます。

Q   服は世界の前向きな変化の手段として、役割を担うと思いますか?

絶対に。衣服は、私たち人間が自分自身、世界に対する私たちの見方、私たちの好み、そして私たちの選択を表現するための主要な形態の1つです。だからこそ、前向きな変化のための非常に直接的なツールです。

Q   今回掲げていらっしゃるサステナブルへの取り組みについて

ロックダウンの間、モンゴルの牧草地の問題や遊牧民たちの生活について深く考えることとなりました。スピードアップしてサステナブルな活動を始めなくてはならない。誰かがやってくれるだろう、ではなくて私たちができる全てのことをやろうと決心しました。厳しく、粘り強く続ける必要があります。イタリアの紡績工場は非常に高いクオリティを誇っていますが、私たちはモンゴルで原料を買っているのでその原料をイタリアで製品化するのではなく、全ての工程をモンゴルで一貫して行うことはできないかと思ったのです。

そこで、持続可能性のあるカシミア原料だけを扱うことに決めました。そこから全ての行程をモンゴルで一貫して行うことに決めました。ホームコレクションはすでに100%メイドインモンゴルです。クオリティは素晴らしく、テクノロジーもハイレベルです。カシミアとモンゴルの人々のクラフトマンシップ、サステナビリティ、デザインが全てモンゴルで可能になりました。ウェア類はまだ100%ではないけれど、道途中です。ワインや酒と同じように、原産地で加工まで行うことが理想であり、いいことだと思います。

Q   「装い」という日々の行為の意味とは?自身や周囲の人々、社会、生き方にどのような影響を与えると思われますか?

私たちにとって装うという行為は自分を表現するために不可欠なものです。日常的に、ほぼ自動的に行っている行動だからこそ、とても重要です。特にサステナビリティの話に戻せば、正しい選択をすることが大切。ファッションは嗜好品だと考える人も多いけれど、無意識であっても誰もがファッションに参加しているものなのです。誰だって何かを着ています。それが「いいえこれはファッションではなくて、デニムとTシャツです」と言ってもそれはファッションなのです。ファッションは、あなたがどのような人なのかを表すものです。そして周りの人に影響を与えるものでもありますよね。誰かの装いを見て周りがハッピーな気持ちになり明るいエネルギーを感じたり、彼女の着こなしかっこいい!と心を動かしたりする、それが影響力です。周りを動かすパワーになります。

Q   シジェームのコンセプトである「本質」「上質」「一流」。オユーナさんにとってはこれらの表すものとはとはなんだと思いますか。

本質というのは、本物であるということだと思います。製品そのものが本物であり、人との関係性にも偽りがないこと。それらは繋がりあっていますので。また、上質というのは 本物を輝かせる存在。核の部分であり、エネルギーだと思います。心の底には核となるエネルギーがあると思いますが、それこそが上質なのだと思います。製品の中にもエネルギーがあります。人間の魂は心の中に宿り、人の手を通して100%の思いが製品に反映されているからです。手仕事によって紡ぎ出されたのものが本物のエネルギーを放ち、この地球上で生命力を放つ。そういう風に感じています。

 

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OYUNA デザイナー

Oyuna Tserendorj(オユーナ・セレンドルジュ)

OYUNAデザイナー。モンゴル生まれ。ハンガリーでファッションテクノロジーを学び、その後、英国のセントラル・セント・マーチンズのプロダクトデザインのコースに入学。2002年、ロンドンで100%カシミアのホームコレクションブランドをスタートさせ、現在は、ウィメンズウエア、ユニセックスウェア、トラベル、ホームコレクションなどを展開。

https://oyuna.com/