SIXIÈME GINZA MAGAZINE 035

自然の中にある美しさから新たな魅力を抽出し解釈する(前編)

Interview with we+

各方面でご活躍のSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢などをお話しいただくこのコーナー。今回は、SIXIÈME GINZAのホリデーシーズンの空間演出を手がけてくださったコンテンポラリーデザインスタジオ we+(ウィープラス)のオフィスにお邪魔しました。

プロダクト、インスタレーション、グラフィックなど多岐に渡る分野のディレクションとデザインを行い、実験とリサーチに立脚した独自の表現が特徴のwe+。日本のコンテンポラリーデザインの第一人者であり、国内外で高い評価を得る気鋭のデザイン集団です。we+の安藤さん、林さん、青木さんに、常に心を動かす魅力的な作品を生み出す表現力の根源について、そしてワクワクしながら毎日を生きるヒントについてお話しいただきました。

 

左から青木陽平さん、安藤北斗さん、林登志也さん

出会いとこれまでのこと

日本橋・馬喰町のwe+のオフィスを訪れると、その広い空間には紙、アクリル、金属、石などさまざまな素材が雑然と並んでいました。試作品と思われるオブジェ、作品の椅子や照明などがあちこちに置かれた空間は、まるで実験室か工房か。多肉植物が大きな窓の下に並び、本棚の上にはそれぞれの好みの写真集、デザイン本やおもちゃ。自由にクリエイションを働かせ、皆で試行錯誤を繰り返しながら作品を作り上げていく光景が想像できます。

we+は林登志也さんと安藤北斗さんの2人で創業され、のちに青木陽平さんが加わられて、ほかスタッフやインターンの学生さんを含めて創作活動を行なっています。林さんと安藤さんの出会い、we +のこれまでのことを伺いました。

Q お二人の出会いとwe+の活動がスタートした頃のことを聞かせてください。

安藤北斗さん(以下、安藤)
林とは共通の友人を介して知り合いました。僕は当時ロンドンの美大に通っていたのでメールなどで連絡を取り合いながら、創作活動をスタートさせました。帰国後は、それぞれがほかの仕事を持ちながらwe+としてのプロジェクトに取り組んでいました。僕は日本とイギリスの2つの美大でデザインを学んだので、ある程度デザインの下地は出来ているという感覚はありましたが、ビジネス的な側面からデザインを見たいと思い商社に入りました。業務内容は建築などのプロジェクトのマネージメントで、僕が実際にデザインするわけではなく、デザイナーのプランを取りまとめて施主に対してプレゼンし、制作工場に発注するなどの役割を5年ほどやっていました。社会の中でデザインの価値がどこにあるのか、どのようにお金が動くのかを理解できた意味は大きかったと思います。

林登志也さん(以下、林)
大学は経済学部だったのですが、在学中にお芝居をしていて、そこでものづくりの楽しさを知り、将来はものづくりに携わる仕事をしたいと思っていました。芝居では役者、プランニング、舞台装置制作、演出など全ての役割をしていたのです。ものづくりに携われる社会的な仕事は何だろうと探しているうちに、広告の世界を知り、卒業後は広告業界に入りました。しかし会社に入っても自分のやりたいことがなかなか出来ない中、やりたいことは自分で作るしかないと思って様々な学校に通いつつ悶々としていました。何か面白いことをやろうと仲間と話していたら、あちらからもそういう声が聞こえてきて、それが安藤だったんです。同じような感覚だったのでしょう。

Q we+をスタートされて、初めて大きな評価につながった作品は何ですか?


KAPPES(デザイナーやエンジニア等、複数のメンバーによって構成されるクリエイティブチーム)として制作した、水滴がテーブルの中で踊るように動くMOMENTumという作品でした。2014年にスタジオを立ち上げた直後の作品で、最初にミラノサローネに出展したものです。当初は自分たちが納得する作品をプレゼンテーションしたらどうなるだろう、という気持ちで実験として出してみました。そしたら思いの外お声がけをいただいてたくさんの人にいいねと言っていただきました。パリやほかの都市にも展示したい、ほかの作品を作って欲しいという依頼も受けました。

安藤
“コンテンポラリー”という軸を見つけてくれた作品もMOMENTumでした。海外のあるキュレーターが僕たちの作品を見て「これはコンテンポラリーデザインだね」と言ってくれたんです。それは初めて聞いた表現でした。“コンテンポラリーデザイン”というワードが突然目の前に現れたのです。それまでは作りたいデザインが頭の中にあっても何と表現すべきか全くクリアになっていなかったのですが、言葉が見えたことでその分野を掘り下げて研究し、自分たちの立ち位置が“コンテンポラリーデザイン”なのだ、とはっきりしました。

MOMENTum

Q we+はアートではなくデザインだとおっしゃっていますが、その違いとは何でしょうか。


デザインの大きな目的のひとつは、社会活動をいかにスムーズに美しいものにするかということだと思います。僕らはデザインというベースの中で活動することが社会と直接的につながることだと感じています。

安藤
アートもデザインも社会をアップデートしていくための要素だということは間違いないと思います。そのアップデートの仕方の違いなのだと思います。アートは遠くにある雲のようなもので、社会を間接的にアップデートしていくもの。デザインは社会環境の中で成立する身近な存在なので、直接的な影響を及ぼすことができるのだと思っています。僕らが椅子や照明やテーブルなどを作っているのはまさにそういう理由です。生活に対して繋がりやすい存在としてのデザインを目指しています。

 

自然の持つ共感力に勝てるものはない

水、風、土。自然界に存在する素材と向き合い、試行錯誤を繰り返しながら、地道に完成形を作り上げていくのがwe+の作品づくり。幾度もの実験と失敗を重ねながら、最終的には引き算の美しさを極めたシンプルな作品が完成します。素材から紡ぎ出される有機的なリズムやゆらぎは、いつまでも見続けてしまう引力を持っています。

Q 土や水など自然をモチーフにした作品が多いですね。自然現象を追求している理由とは何でしょうか。


確かに、自分たちは自然現象を取り入れた作品を多く作っています。we+として大きく飛躍するきっかけとなったMOMENTumも水をテーマにした作品であり、もっと前から水という素材を作品に取り入れていました。汗をかくと文字が浮き上がるTシャツなども作っていましたね。水など、動きに揺らぎがあることが面白いなと思って作っていたのですが、よく考えてみると自然界にあるものは世界中の人が体験していることなんですよね。汗、水、風について話せば誰もが「私はこういう風が好きで」と話が広がります。世界中の誰もが話せる共通言語だからこそ、みんなが魅力的に思って共感してくれるのではないかと解釈しています。

安藤
自然の魅力や共感力に勝てるものは、今のところ他にはないと思っています。自然は一番共感力が高い、というのは真理かもしれません。人類が生まれてこのかた自然とともに生きてきたからこそ、DNAレベルで自然が好きで、自然と一緒でなければ生きられないことが分かっている。だからこそ共感を得られるのではないかと思います。例えばこの部屋だと、天井に取り付けられたエアコンのプラスチックにはあまり共感できないけれど、コンクリートの色むらや揺らぎの部分はある種自然のようなもので見ていて面白いですよね。ものには不確実性があった方が楽しいと思うのです。

 

チームとして仕事を進めるには

青木陽平さん(以下、青木)
フラットに話し合える環境をつくるように心がけています。現在インターンも8名いますが、誰の意見でもいいことは取り入れて、咀嚼して作品づくりにつなげていこうとしています。会社の雰囲気は和気あいあいという感じで、分け隔てなく付き合い、飲み会もよくしています。話しやすい空気感が自然と作れているように感じています。

安藤
話し合いの時には、目の前にある素材のサンプルを通して議論するようにしています。対象になるものをどのように使ったらいいものが出来るのか、という話し合いをすることで活発な意見が出やすくなります。頭の中にある考え方について議論すると、自分の方が絶対にいいという意見のぶつかり合いで終始してしまいます。僕たちは見えるものを作っていくので、見えるものをもとに議論することで誰でも公平に意見を出し合えます。もの(素材)の方が絶対的な価値をある、という考え方が公平感につながっています。

青木
自分の頭で考えすぎないようにしています。素材に対して固定観念を持たないようにすることが大切なんです。素材に一番興味を持って触るのはインターンの学生さんだったりします。その人がいいと思ったものは素直にいいね、となります。


ものの前にはみんな平等、という考え方です。もちろんそのものがどのように作品として形作られていくのか、それから先はどうなっていくのかを想像するのは経験や普段何を考えているのかに紐づくものだと思うのでインターンではなく経験がある自分たちがジャッジしなければいけない部分ではあります。けれど、目の前のものが面白いか面白くないか、に関しては平等なのでみんなでやっています。

 

慣れは危うい。
いつもと違う環境に自分をおくと感覚がクリアになる

Q インスピレーションはどのように得ていますか?

青木
特別なことではなく、雨が降っているときに物干し竿についている水滴や、通勤の時に御茶ノ水駅の橋の下に太陽光の反射が揺らめいている様など、日常の中で見つける光景です。それを見つけた時に、何かに使えるかなとストックするようにしていて、それがインスピレーションにつながっているのかなと思って、いつもアンテナを張っています。日常の中でふとした気づきあるからこそ、素材の面白い使い方が思いつくのかなと思います。

安藤
僕も、何気ない日常に潜んでいる美しさや違和感を拾うようにしています。例えば、雨粒が電車の窓にくっついて電車が走って水が流れているのを、面白がってさらに注意深く見ることで水の道ができたり反対方向に流れたり、といった発見があります。それが直接的に作品に結びつくわけではないですが。子供は、そういう面白いことに気づくのが上手ですよね。子供にとっては全てが初めてのことだから毎日が発見の連続で、全てに感動しています。大人にとっては新鮮なものが少ないけれど、なんとなく気をつけて日常を見ることで、そこに潜む何かを発見できるのです。


子供はなんでも見つけるのが上手ですよね。それはわからないことが沢山あるからです。毎年、時の流れを早く感じるようになりましたが、それは大人になって全てに慣れてきて新鮮なものが少なくなってきたからなんです。

安藤
この半年、早かったですよね。気づいたら今年も終わってしまう、と焦りを感じています。


僕も、時間が経つのを年々早く感じることに危機感を覚えていました。いつも感覚をクリアにしておくためには、時間軸の中に記憶のくさびをさしていくことが大切なのだと気付いたんです。そこで、自分の場合はどこで物事の記憶が残るのかなと思い返してみると、いつもと違うことをした時や不慣れなことをした時に記憶が鮮明に残る、ということがわかりました。それ以来、自分が慣れていることをしている時が一番危ういと思うようにしています。慣れると人生のスピードが早くなってすぐに過ぎてしまう。僕は自転車通勤しているのですが、例えば帰る道を変えるとか、聴く音楽を90年代懐メロに変えてみるなど、工夫をしています。

Q 日常に少しの変化を与えることで、慣れてしまうことを防ぐのですね

日々、常にちょっとした変化を与えることで刺激がある。そうすることで物事を発見しやすいし、かつ記憶に定着しやすいなと思っています。旅行先で聴いた音楽を覚えているし、その音楽を聴くと情景が広がることってありますよね。それはいつもと違う環境に自分をおいているからなんです。自分の感覚がクリアになれば、よりいろんなことに対して敏感になり、感受性豊かになれると思います。

 

インタビュー後半へ続きます

 

we+(ウィープラス)

リサーチと実験に立脚した独自の制作・表現手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。林登志也と安藤北斗により2013年に設立。産業やテクノロジーの発展によって効率や合理性が追求され、多様性が失われつつある現代社会。そんな状況を俯瞰することで、人と、人を取り巻くあらゆる物事・自然環境の間に親密な共存関係を築くオルタナティブな視点や表現を探究しています。近年は、自然現象の移ろいやゆらぎを可視化することで、人工と自然が融合した新たなものづくりのあり方を模索しており、国内外で自主制作作品を発表。また、日々の研究から得られた知見を生かし、インスタレーションをはじめとしたコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、グラフィックデザインなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手がけています。

https://weplus.jp/