SIXIÈME GINZA MAGAZINE 028
直感や曖昧な心の動きを大切に
Interview with MEGUMI SHINOZAKI
各方面でご活躍されているSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢やマインドなどをお話しいただくこのコーナー。今回は、SIXIÈME GINZA の今年のホリデーシーズンを彩る空間演出を手がけてくださったフラワークリエイターの edenworks 篠崎恵美さんにお話を伺いました。
篠崎さんによる、花や植物を使った独創的な世界観が国内外で話題になっています。人気アーティストのミュージックビデオ、雑誌やカタログ、ファッションブランドの店内装飾、ショーウィンドウなどの制作活動の傍ら、土日限定営業のフラワーショップ“edenworks bedroom”、ドライフラワーに特化した“EW.Pharmacy”も運営されています。そしてこの秋、「花を棄てず、次に繋げる」をテーマに掲げたコンセプトショップ"PLANT by edenworks" がオープンしました。「花によって人生が変わった」と語られる篠崎さんと花との関わり、次世代に命をつなげるサステナブルなマインド、日常に花を取り入れ心を豊かにする秘訣について語っていただきました。
花が自分を変えてくれた
どこか詩的でストーリーを感じさせる篠原さんの作品は、テーマによって硬軟自在に変幻します。色鮮やかで力強い花々、妖艶に咲き誇る様、可愛らしい野花が散りばめられているものも。そのどれを見ても、庭に生えた草花を採って生けたような野性味があり、伸びやかで自由な空気に満ちています。見る人の記憶に残る独特の世界観は、どこから生まれているのでしょう。
服飾デザイン学校を卒業後、ファッション関連の仕事をされていた篠崎さんは、ある日通りがかった花屋さんに入った途端、直感的に働きたいと思って門を叩き、すぐに働くことになりました。篠崎さんが花の仕事をスタートされるきっかけとなったその花屋は英国アンティークショップに併設されたイングリッシュガーデンのような、雑多で自然溢れる店。その場にいるだけで居心地の良さを感じ、不思議な感覚だったそうです。「どうしてあの時衝動的に花屋にいたいと強く願ったのかを思い返すと、それは実家で過ごした日々への追憶だったのかもしれません」。篠崎さんのお母様は大の花好き。「実家には庭にも家の中にも母の趣味で小さい花から大きい花、庭の花やもらった花、生からドライフラワーまでありました。母の日に子供達からもらった花も全てドライにして、1つ1つの花をいつ誰に贈られたのかを覚えているほど花への思い入れある人です」。花の存在が気にならないほど花に溢れた空間が当たり前で普通のことだったからこそ、一人暮らしを始めた時に「何かが足りないと感じました。しかし、何が足りないのか長い間気付かずに過ごしていたのです」。
花や植物に触れる仕事をして18年、人生が開けてきたと感じられているようです。「日々花を触って見るようになって内向的だった自分が変わっていきました。花については学校で勉強をしたこともなく、師匠もいないので、全て独学です。だからこそ、固定概念にとらわれずに自分を解放し、表現することを怖がらずに思い切り創作活動が出来ているのだと思います」。花の世界は、歴史も長くルールも多い。華道にいたっては流派によって決まりもさまざまで、それは奥深い世界です。そんな中、ゼロの状態で入ってきた篠崎さんは必死で草花の勉強を始められました。独立後はクライアントの発注を受けて創作活動をスタートし、大好きな音楽や洋服の仕事を、花を通して出来るようになったとおっしゃいます。
「お花には感謝の気持ちしかありません」。花に語りかけ、それぞれの花の個性を引き出しながら創作する篠崎さんのスタイルは、花に対する“ありがとう”という温かい気持ちからなのかもしれません。
直感や、曖昧なものが一番大切
花のチョイスや組み合わせがお洒落で、絶妙な抜け感のある篠崎さんの作品。私たちが日常生活で花を飾る時、どのようなことに意識すれば自分らしいスタイルを見つけることができるのでしょうか。
「私には師匠がいないので自分で何万回もトライしてきた中で、やっと今のスタイルが完成しました。花の世界には決まりごとが多いです。この花とこの花を合わせたらダメとか、ウェデイングにはこの花は使わないなどシーンによっては不向きとされている花も多いです。決め事を作りすぎていることが多いけれど、そのルールは人が決めたことで、花の世界にはそのような概念はないはず。既成概念にとらわれず、自由に好きな花を買って、直感的に組み合わせて自由に試すのがいいと思います」。
伝統的な決まり事を気にしすぎると、日常で花を楽しむ自由度が低くなってしまいます。
「土日限定の花屋“edenworks bedroom”には、菊や彼岸花と一緒にアメリカの西洋花も、中国の花なども自由に並べて置いています。」。
直感の価値や、「かわいい」「きれい」といった曖昧なものを感じるのは人間の素晴らしさ。既成概念にとらわれずに自分の心の声を聞いて取り入れることが、豊かさにつながるのではないでしょうか。
「昔母に、どうして花を捨てないの?と聞いたときに、だって可愛いから、かわいそうだから、という母の純粋な気持ちが聞けました。それは理論や理屈ではなく、直感的な気持ち。それがいまの時代には一番欠けているし、大切なものだと思います」。
多くのアーティストや企業とコラボレーションし、制作活動をなさっている篠崎さんが空間演出で心がけていることとは何でしょうか?
「作品を見た人の気持ちが優しくなれるように、と心がけています。暗くて怖いイメージにならないようにしています。今回のSIXIÈME GINZAでの展示ではダークファンタジー“Witch story”のテーマがありましたが、色はダークにしても自由なムードを残しています。私は花を生き物だと思っているので、花がかわいそうに見えるような飾り方はしません」。さらに、作品を完璧な状態で完成させるのではなく、少しの余白を残すところにも、篠崎さんの創作に対するスタンスが垣間見られます。ファッションの仕事をされていた時は、完璧主義のために全部をご自身でされていたそうですが、お花の仕事を始めたら完璧でなくてもいいなと思えるようになったそうです。
「花は存在としては完璧ですが、生き物なので枯れたり水が落ちたりといった儚い部分もあります。それを見て完璧であることを求めなくてもいいのだと思いました。私自身、いい意味で力が抜けて来た感じがします」。
捨てずに、次世代に繋げたい
「花の仕事を始められてからずっと花を捨てたくない、と悩んできた」という篠崎さん。花屋から独立したばかりのときも、花を捨てたくない気持ちから店舗は持たずにクライアントから発注を受けて作品を作るクリエイターとして活動されていました。
「お花は命があるものなので、枯れたら捨てて終わりという考え方もあると思うのですが、そこから次に繋げていきたかったのです。それで、ドライフラワーのお店“EW.Pharmacy”を始めました」。お店で売れ残ったお花や、クライアントの仕事で使われなかった花を、捨てずに再び生かすということが叶いました。さらに、9月にオープンしたばかりのお店“PLANT” は人々の花を大切にする気持ちに寄り添いながら、未来に何を残すかを考えるラボラトリーです。「お客様が持参された生花をお預かりして”PLANT”内のドライシステムで急速乾燥させ、色が綺麗に残るようにドライフラワーへと加工を施した上で、様々なアレンジ方法で保存します」。生花のウェディングブーケや記念の花束などをドライフラワーにすることで、思い出が長続きします。人生の嬉しい場面に使われることが多い花だからこそ、記憶に寄り添う篠崎さんの活動は私たちの心を温かにしてくれるのでしょう。
山の向こうにはきっと素晴らしい世界が
現在38歳の篠崎さん、自分の人生を変える花との出逢いを経て、これから先はどのような大人になっていきたいのでしょうか。「今は頑張って東京で仕事をしていましが、年を重ねたら田舎で畑を持ってタネから草花を育ててお教室をやりたいです。朝起きてお水をあげる、育てる、生きていると実感することを最終的にやりたいです。花の仕事をする、ブレない自分でいられるようにしたいです」。
素敵だなと思う女性はどのような人なのでしょうか?
「見えないところにブレない芯を持っている人に憧れます。言葉や目に見えるプライドの強さには惹かれません。柔らかな物腰で優しい雰囲気なのに、外見には見えないところにブレない芯がある人はいいなと思います」。
篠崎さんのクリエイションの活力源になっているのは人の喜ぶ顔。相手に喜んで欲しい、という強い気持ちが彼女を駆り立てています。「昔は、自己表現することに喜びを見出すようなアーティストに憧れていたけれど、自分には向いていませんでした。今は、大好きな花のケアをして、お客様からのために花を使って表現するだけです。予想以上のものを作って、相手に喜んでもらえたら嬉しいです」。
ルールの多いお花業界で紆余曲折ありながらも花の個性をありのままに自由に表現されている篠崎さん。柔らかな話し方と優しい笑顔、一見儚げで可憐な女性だが、見えない部分に確固としたブレない芯を持つ方です。 花に感謝し、大好きな花と共に、人々のために表現し大切な記憶に寄り添う彼女の姿は、直感や曖昧な気持ちに耳を傾けて人間らしくしなやかに生きる幸せをいま再び気づかせてくれます。
edenworks
篠崎 恵美
「edenworks」主宰。一般的な装花のほか、アーティストやミュージシャンとのコラボ作品多数。ミュージックビデオやCDジャケットのアートワーク、百貨店やセレクトショップのメインビジュアルおよびカタログ撮影、アパレルブランドとのコラボ商品の制作、ディレクションなどさまざまなプロジェクトに参加。2015年にフラワーショップ「edenworks bedroom」をオープン、2017年に紙の花のプロジェクト「PAPEREDEN」を発表。また、調剤薬局の調合をコンセプトにしたドライフラワーショップ「EW.Pharmacy」をオープン。2019年秋に「花を棄てず、次に繋げる」をテーマに掲げたコンセプトショップ「PLANT by edenworks」がオープンしました。
http://edenworks.jp/