SIXIÈME GINZA MAGAZINE 021

自分らしくあることに妥協しない
それが私にとっての上質

Interview with YUMI HARA

各方面でご活躍されているSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢、一人の女性としてのマインドなどをお話しいただくこのコーナー。 今回はSIXIÈME GINZAのMDディレクターを務める笠原が聞き手となり、モデルの原由美さんにお話を伺いました。

今から2年前の2017年4月。SIXIÈME GINZAがオープンした際に新聞広告のモデルとしてご登場いただいた原さん。オーディション会場に現れた際のかっこいい佇まい、堂々とした立ち振る舞いが印象的で、その姿は今でも鮮明に記憶に残っています。眼差しや存在そのものがSIXIÈME GINZAが描く女性像でした。彼女の存在感や魅力は一体どこからくるものなのか…。原さんのお話を伺い、ご自身のスタイルを持って凛と生きる姿に憧れを抱きました。そして、これからますますオシャレを楽しみながら人生を歩んでいこう、という晴れやかな気持ちになりました。

「SIXIÈME GINZA」MDディレクター・笠原安代

 

新聞広告のビジュアル

笠原: 原さんとお会いするのは2年ぶりですね。撮影ではお世話になり、ありがとうございました。広告を出すにあたり、誰もが知る特定のイメージがある人ではなく、自分のスタイルを持っておられて、言葉なくとも存在だけでそれを感じさせることができるモデルさんがいないか、と漠然とイメージしていました。そんな中、オーディションの際に初めて原さんにお会いしました。原さんへのインタビューを始めた瞬間に“まさにこの方だ!”と思ったのです。しかも、その場にいたスタッフ全員が同じ気持ちでした。

原: ありがとうございます。そうですね、急なオーディションでしたよね。私自身は、お呼びがかかったので、では行ってきますよという感じでお伺いしたのですが。

笠原: 私達がファーストインプレッションで受けた原さんの魅力と雰囲気をそのまま表現したいなと、メイクも極力ナチュラルに素を活かして撮影するようにお願いさせていただきました。原さんご本人に信念やスタイルがある方なのではとお察ししたからです。オーディションの時には、どのような事に気を配っていらっしゃいますか?

原: オーディションの時には自分がよく見えるように、と心がけています。自分が思っている“いい自分”という意味ですが。なので、「白い服を着てきてください」という服装指定があるオーディションでも、自分は黒の方が似合うと思っているので、黒を着て行きます。

笠原: 白を着て来てくださいね、と指定されても黒を着て行かれるんですか?

原: はい。そちらの方が似合うので。それに、白いシャツは持っていますが黄ばんでしまって気に入ったものがないのです。私は、黒、紺、グレーの方が似合うみたいです。まあ、これからは何が似合う色になるのかは分からないですけどね、年代で変わっていくものなので。

笠原: ご自身が似合う黒を着て行く…その姿勢、カッコいいですね!原さんのワードローブは昔からずっと黒、紺、グレーが多いのですか?

原: 若い頃は色々な服を着て冒険したいと思っていましたが、40代くらいからは黒、紺、グレーばかりですね。セールで白っぽい明るい色があれば買ってみることもありますが、でも結局着ないで置いてあるだけで。置いておくうちに黄ばんでしまったりして。笠原さんがニュートラルなベージュやグレイジュが似合うのが羨ましい。今日のベージュの着こなしも素敵ですね。

笠原: 私は、ハッキリとした黒などよりもグレイッシュで曖昧なカラーが似合うようなのです。肌に少しイエロー味があるので、このような中間色がしっくりきます。


自分が一番いい状態でいる、それが大切

笠原: 自然な白髪が素敵ですね。いつ頃からグレーヘアーにされたのですか。

 原: 3年前くらいからでしょうか。ある日突然白髪染めが合わなくなってしまったんです。カラーリングの後3日間くらい肌が真っ赤になってしまって。全身に蕁麻疹が出来る場合もあると知ってこれは怖いなと思い、白髪染めをやめることにしました。

笠原: グレーヘアーにされたことでお仕事に変化はありましたか?

原: 白髪になったことで仕事がなくなっても仕方がないと思っていました。白髪染めをやめると決めた年の忘年会で事務所の皆さんに「ごめんなさい!私はもう白髪でいくから。それで仕事が来なければそれでいい。自分の体の方が大事なので」と宣言しました。でも、蓋を開けてみると白髪混じりを探しているという声が沢山。それでは私、白髪需要を独占かしら?!と思ってしまったくらいです(笑)。
自分が一番いい状態でいることが、仕事にもつながるのではないかと思っています。

笠原: 自分を大切にして、健やかに過ごすことがいいお仕事にも繋がっていく。深いですね。モデルの方は、仕事のために自分を変えることがあるのかと思っていましたが、原さんはご自身をしっかり持っていらっしゃるのでしょうね。無理に何かに合わせることはせず、いつも自然体なのでしょう。私は、仕事上こうでなければ、と思って頑張りすぎてしまうことがあります。先日も、足をくじいて痛めていたのに、仕事できちんとしなければならない場面があったので無理してヒールを履いたら案の定悪化させてしまって。原さんみたいに自然体で、自分らしくいることが大切なのだなと反省しています。

原: ヒールの靴はハードルが高いですよね。今の時代、スニーカーがおしゃれな靴として市民権を得たので嬉しいです。スニーカーの中でも、スポーツブランドの普通のスニーカーは普段履き、ブランド物はお出かけ用といった感じで用途を分けています。

ずっと、コンプレックスがありました

原: 私は昔からコンプレックスがありました。小さい頃からひょろっとして骨っぽくて、可愛くなかった。私だけどうして?と幼い頃からの悩みでした。周りにも可愛らしくないとか、老けている、などと言われて。小6の時に母と街を歩いていたら、どこかのお店の勧誘に母が「お嬢さんは今お勤めされていますか?」聞かれて困ったそうです。小さい頃からそんな感じで大人っぽく見られて、ほかの人と違って可愛らしくないと思われていた。コンプレックスと先入観があったのです。

笠原: ご自身の個性を把握されていたからこそ、今の原さんの確固としたスタイルが築かれたのですね。モデルの仕事は俳優さんと違って思い切り自己表現できないところが余計に難しいのではないでしょうか?

原: モデルとは自分を表現するのではなく、洋服や身につけているものを美しく見せること。漠然とそう思って仕事をしていました。それが、友達のある一言で意識を変えなくてはと改心しました。私が載った雑誌を見ながら友人が「うーん、笑っているようで笑ってないよね。口は笑っているけど、目は笑ってない」と指摘してきたのです。どういうこと?と思って自分で確かめて見たら、なるほど目が笑ってないと気づきました。それって私、楽しめていないのではないか?と。モデルの仕事を本当の意味で楽しめていないから目から笑えてないのだなと考えるようになりました。
喪服の撮影の時は若干悲しげな表情をしなければいけないですし、楽しい気分の時は心から楽しい表情が必要。だから、友達とわいわい騒いだ時には「楽しい時にはこの顔だな」とその瞬間の気持ちを楽しい引き出しにおいて、寂しい気持ちの顔は寂しい引き出しに、とさまざまな感情の引き出しを作るようにしました。撮影の時に、この服にはあの感情で着るのがいいかな、とちょっとした演技を考えることが楽しくなりました。
「原さんが着た服がよく売れましたよ」と言われるととっても嬉しい気持ちになります。アクセサリーや服のディテールを魅力的に見せるようには、どのような立ち方がいいのか、袖のフレアを見せるために肘を曲げてみようか、など工夫しながらポーズを取るのがとっても楽しくなってきました。

笠原: 30年以上のキャリアの中で、モデルを辞めようと思ったことはなかったですか?

原: 一瞬だけ、白髪が出てきた時にちらっと思いましたけれど。でも同業者の人に「そんなの全然いいんじゃないですか」と言われてすぐに辞めたい気持ちは吹き飛びました。今では、白髪でもこんなお洋服なら似合いますよという風に演じています。仕事が面白くて仕方ないです。

笠原: モデルとして、若い頃と今とで求められるものの違いや、ご自身の意識で変化された部分はありますか?

原: もともと私は魔女顔と言われていて可愛い路線ではなかったので、若い頃でもいわゆる “可愛らしさ”を求められるタイプではなかったのですよ、特殊枠だったので(笑)。それが年を重ねると、イカつい顔にさらに影や重力が加わるので、余計に怖く見えてしまいます。疲れていないのに「大丈夫?疲れてる?」などと聞かれることもあるので、気をつけなければなりません。心の持ちようで顔の表情も和らぐように、中身が滲み出て来るように、という気持ちが強くなってきました。大人になった今だからこそ表現できる内側からの柔らかさを纏えるようになればいいなと思っています。

笠原: 原さんはモデル以外の活動もされているとか?何か趣味など夢中になっていることはございますか?

原: 今は、苔玉作りにハマっています。5年前に知り合いに誘われて習い始めたら夢中になってしまいました。お手軽盆栽からの始まりだったのですが、その流れで余暇は苔玉に集中するようになりました。苔玉は、鉢に入った植物の鉢を外して根っこと土の部分に苔を巻いていくもので、松や桜などで出来ますから日本的で盆栽的要素が強いですね。自宅でお友達に教えたり、イベントにも講師として呼んでいただいたりしています。

笠原: 苔玉のある生活って素敵ですね。苔玉に出会われたことで何か変わったことはありますか?

原: 毎日水やりが必要ですし、生き物がある生活はいいですね。今は夫と苔玉が家族です。夫は、兄弟も親もいない私にとっては唯一の家族で、かけがいのない存在。毎日色々話したり、相談したりしています。今日の服装も相談して決めましたよ。

足元だけは流行に乗っていこうかな

笠原: ファッションを選ぶ際に大切にされていることや、こだわりはありますか?

原: 自分を綺麗に見せてくれる服を探しています。流行りものがどんどん似合わなくなってきているので、トレンドを追っても仕方がない。でも、足元だけは流行に乗って行こうかなと思います。

笠原: 足元には時代が出ますからね。実は、SIXIÈME GINZAは“足元から立ち上げたスタイルをトータルでご提案する”ということをコンセプトにスタートしました。SIXIÈME GINZAのあるGINZA SIXの前身が松坂屋百貨店なのですが、そこは土足で入る日本で初めての百貨店でした。今では靴のまま入店するのは当たり前に感じますが、当時は画期的なことでした。当時の日本人はお店に入るときは靴を脱いでいました。ほかの百貨店では入口の「下足預かり」係が、お客様の靴を預かっていたそうです。それがお客様を土足のままお店にお迎えするのですから、靴を含めた全身のスタイリングを見せられる日本初の場所だったのではないかと想像しています。そのような先駆的な場所だからこそ、靴から始まる着こなしの提案はSIXIÈME GINZAとして大事なコンセプトの一つとして捉えています。お客様が素敵な靴をお探しの時に「SIXIÈME GINZAへ見に行こう」と思っていただけるような存在でありたいなと願いながら品揃えをしています。

原: 私は、お金をかけるべきなのはお洋服よりも靴だと思っています。洋服は何年経っても着られますが、靴は何年かたつと顕著に劣化します。しまっておいても退色など経年劣化してしまうので長く持たせても仕方ない。気に入ったものを履いて2年くらいで変えていかないとだめですね。大事なものとしておいておくのはいいけど、それは見るだけ。靴はキラッとトレンドも取り入れながら、新鮮味を保っていきたいです。あそこに行ったらいい靴が色々あるよ、というお店ならお友達と行きたいです。

笠原: 私たち世代になると、安い靴はダメですね。作りがしっかりしていて、足に馴染んで歩きやすい靴でないと足を痛めてしまいます。もちろん歩きやすいペタンコ靴も毎日のために必要ですが、履きやすければいいという訳ではない。パーティの時だけヒールに履き替えるなど、特別な日にお洒落する靴は持っておきたい。世の中的にはスニーカー流行りですが、普段スニーカーでお食事の時だけ履き変えるなんて素敵ですよね。

原: 私も普段はペタンコやスニーカーを履いています。でも、つい先日友達がオレンジのパンプスを素足で履いているのを見て、ああ、これはいいなあと良い刺激になりました。そういうキレイな靴も履いてちゃんとオシャレしていなくては、と思いました。足元がどうでもよくなったら、その時点で足から上もぐうたらしてしまいそう。靴もこんなだから上もどうでもいいか、と(笑)。足元は自分を底上げしてくれます。私は、男性でも足元の着こなしを見てしまいます。靴はいいのにソックスが勿体無いなあというケースも多いんですよ。

笠原: 年齢を重ねるごとに、先の方を大事にしなければいけないと言われたことがあります。手先、足先、頭。先を美しくしていると全体がキレイに見えるそうです。先端まで健やかに体を整えてヒール靴が美しく履ける女性でありたいと思います。

原: 私も、自分の靴箱には見えるところにお気に入りのパンプスを置いてありますよ。


人にしてもらう、から自分がもてなす側に

笠原: 20代の頃の考え方と今で何か変わったことはありますか?

原: 大きく変化しました。一人っ子だったので子供の頃は甘やかされて育ち、さらにモデルという職業についたので「モデルさんは座ってて」「手でも怪我したら困るからお手伝いいらないわよ」といったシチュエーションが多く、周りの方が自分のために動いて下さるよう環境でした。でも、そのままでは恥ずかしいし、大人になってこんなことも一人で出来ないなんて問題ではないか?となんとなく自覚し始めていました。

笠原: その心境の変化は、どこから来たのでしょうか?

原: 誰かに何かを言われた訳ではなかったのですが。今までとは反対に、自分が上に立って、若い人を育てる立場になれるようになりたいと思ったんです。きっかけは夫と結婚したことでしょうか。夫のお客様を自宅に招いて、自分がおもてなしする立場に初めてなった時、誰かのことを考えて何か準備するのが楽しいことに気づきました。自分が人に喜ばせてもらう楽しみから、今は周りの方に喜んでいただくことが楽しみ。人生は年々楽しくなってきて、今が一番楽しい。年を重ねないと味わえない楽しみもありますしね。

笠原: では、若い頃に戻りたいなどとは思わないのですね?

原: 今の考え方や経験値を持って若い頃に戻るのならいいけれど、ただ若くなってまた同じことの繰り返しになるなら、このままがいいです。それより、これからさらに年を重ねるていくのが楽しみです。まだこの年では言えないような達観した助言や提言を若者たちに出来るような人になれたらいいなと思います。「お年寄りだからまあ聞いとくか」と周りが思ってくれるはずですから(笑)。 白髪が出てきてもそれを活かす方向に考えられたらいいし、変化を楽しめばいい。だってもう戻れないのですから。

笠原: 年を重ねるごとに楽しさが増してきたなんて、これからが楽しみですね。原さんが考える[本物][上質][一流]とは何ですか?大人になった今だからこそ私たちが生活の中に置きたいキーワードなのですが。

原: 本物、一流であることとは、妥協しないこと。媚びずに、ぶれずにあることかなと思います。

笠原: 自分らしさを貫いてこられた原さんだからこその言葉ですね。変化を楽しむきっかけを自分で見つけられる方法など大事だなと思います。常に変化している原さんに、今は何に夢中になっていますか?と定期的に聞くことでエネルギーをもらえそうな気がします。またぜひ、お会いしたいです。

モデル

原 由美(はら ゆみ)

1962年生まれ。モデル。FOLIO MANAGEMENT所属。
30年以上にわたり「ミセス」の専属モデルを務めるなど、モデルとして雑誌、広告、カタログなど幅広く活躍する傍ら、3年ほど前から苔玉作りに興味を持ち、楽しむうちに趣味が高じて、プライベート方式の苔玉教室を自宅で開催するように(紹介制)。