SIXIÈME GINZA MAGAZINE 042

香水は、自分と周りの人を親密に繋ぐもの

Interview with David Frossard

SIXIÈME GINZA のブランドネームのルーツにもなっている第六感(SIXIÈME)。本能を刺激する贅沢、豊かさを堪能するうえで欠かせないのが香りです。本物・本質を既に知る世代に向けて、まだ見ぬ新たな香りへの誘いとして香りのイベントを開催してきました。

SIXIÈME GINZAと親交の深いリキッドイマジネール(Liquides Imaginaires)のブランド立ち上げのキーパーソンでもあり、オブヴィアスのディレクターとして香りを創り出しているダヴィッド・フロサールさんに香りとはどのような精神的作用がもたらされるのか、人はなぜ香りに惹かれるのかなどについてメールインタビューしました。香りには、私たちが思っている以上に大きな力があるようです。

 

香りで古い記憶が呼び起こされる

Q   香りの魅力とは?香りがもたらすものは何だと思いますか?

“動物的感覚に近い”という理由で思想家たちの間で香りは過小評価されていますが、嗅覚は非常に鋭い感覚機能です。嗅覚は危険や快楽を予感させ、何よりも思い出に浸らせてくれます。 嗅覚は知性よりも確実に速く、過去の思い出へと私たちを連れ戻してくれます。有名な例としては、フランスの著名な作家マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の中の有名なマドレーヌのエピソード。嗅覚が記憶へとすぐに誘ってくれる感覚を、素晴らしい描写で表現しています。そして、嗅覚による記憶は香水によって更に際立ち、印象的なものになります。父親やおじいちゃんの香水、寝かしつけてくれる母親の香水を覚えていない人がいるでしょうか?香水は自分と周りの人々を親密に繋ぐものです。
まず、香りが言葉で自己紹介するよりも多くのこと語ってくれます。そして、香りは喜びをもたらしてくれます。香りがなければ生きる価値がないと思うほど強烈な喜びを与えてくれます。
香水を纏う行為は肌に直接つけることですから、自分にとって親密なことです。心地が良くて、楽しい時を思い出させてくれる香りを纏うことで自分自身に喜びを与えてくれます。 そんな表現をしたくて、Obviousを作りました。

Q   シーンや香りのタイプによって、香水の付け方のポイントがあれば教えてください。

肌(手首、肘、髪など)につけて、そのままイマジネーションを楽しみましょう。ただ、香水にはアルコール成分が含まれているのでお気をつけください。また、コートやハンカチ、他のアクセサリーに香水をつけて楽しむこともできます。そして何より大切なことは、気軽に香水で遊んだり、重ね付けをしたり(Obviousではそれが可能です)、型を破るべきだと思っています。

オブヴィアスの調香師であるAMÉLIE BOURGEOISアメリ・ブルジョワ (FLAIR)
© Photo Laetitia Benady

Q   香りに流行はありますか?社会情勢などの影響は受けると思いますか?(例えばコロナ前と今との需要の変化など

もちろん、香りにも流行はあります。香水は社会的なものであり、ライフスタイルや相互作用に影響を受けます。 例えば、オペラ座に観劇に出かけるならば普段遣いのカジュアルな香水とは違う香水をつけるでしょう。 外出制限により人々が付けたい香水のスタイルも変化しました。 残り香が少なく、より控え目な、Obviousのような香水が好まれるようになっています。

Q   香りは宝飾品や洋服とは違って目に見えず、かつ時間の経過とともに跡形もなく消えてしまうものです。それでも人が太古から大切に思い、惹かれ続けているのは何故だと思いますか?

最初に述べたように感覚機能と関係しているからですが、香水はイマジネーションの扉を開けてくれる目に見えないものだからです。 古代では香水は神様のためのもので、それから神様から王様と女王様に渡り、そして純粋な形あるものを凌ぎ神聖な部分は残しながらも、一般の人の元に渡りました。

香りの好み、嗅覚の成熟とは

Q   嗅覚の後天的な成⻑や成熟はあるのでしょうか。

もちろん繰り返すことで、より多くの香りを嗅ぎ分けることができるようになります。コロナに感染して後遺症で嗅覚障害が残ってしまった患者が、トレーニングを経て嗅覚を取り戻しているという事例でも分かるように、再教育が可能です。

Q   個人の好みではなく、第3者からみて、ある香りが人に似合う、似合わないということはありますか?視覚的なものと嗅覚の関係性についてお伺いしたいです。

香水は付けている人の人柄など色々なことを仄めかします。 例えば恥ずかしがり屋で控え目なタイプの人は華やかな香水を付けない方が良いです。 それに、多くの香水がその時限りの為に開発されているので、趣味が悪かったり、甘すぎていたり、商業的だったりすることもあります。 他の買い物と同じ様に、間違えがないように知識を持って選んだ方が良いです。

Q   嗅覚は全ての人間に備わっているもので、個々に好きな香りは違うと思います。国やエリアによって人気の香りはありますか?あるとすればそれは何に由来すると思われますか?

国やエリアによる香りの好みの傾向はあると言えます。 例えば、日本では他の人の迷惑にならないような香り、米国では絶対的に清潔感のある香り、欧州では官能的な香り、中東では長持ちする香りです。 好みの香りの由来は、身体や香りについての文化的背景や各国の気温などが関係しているので、例えばアフリカとノルウェーでは同じ香水を付けません。

イメージに合う香り

Q   SIXIÈME GINZAのホリデーシーズンテーマ“HAUNTED HOUSE“(資料添付)「ダークロマンティック」や「ミステリアス」といったキーワードをもとに品揃え・店内演出をする予定です。このようなテーマに合うおすすめの香りなどはありますか?

Poivre(ペッパー)はとても意外性のある香りで、フレッシュでスパイシーでありながらミステリアスな側面もあります。 Rose(ローズ)は太陽のような印象もありながらロマンティックで、 Patchouli(パチョリ)は驚きに満ち、はっとする香りです。

Q   もしあなたが日本をイメージして香りを作ってくれと言われたらどのような香り、またはどのような掛け合わせを考えますか?

もちろん桜や、抹茶、ゴマもありますが、日本には武士のイメージによる勇壮な息吹が感じられます。 日本は完璧な作法(武士道、茶道、書道など)を表現するので、端的で張りがあり、フレッシュで、しかし同時に力強いコンポジションの香水になるでしょう。

Q   パリのお店をオープンするにあたり、目に見えない“香り”を演出することはとても難しいことだったのではないかと想像します。具体的にどのようなことを意識されたのでしょうか?店内演出のポイントなどを教えてください。

香水は大手商業ブランドによって信じさせられているよりもずっと幅広く複雑なので、できるだけ大量消費とは距離を置くように心がけました。 似合う香水を選ぶことは時間を要するものなので、お客様を迎えてカウンセリングをします。バゲット(フランスパン)の様に香水を選ぶのではなく、少なくとも本を選ぶように香水を選びましょう、と言いたいのです。

 

© Photo Roberto Greco

David Frossard(ダヴィッド・フロサール)

ソルボンヌ大学で哲学の研究を終えた後、理論より実践的な方が向いていると感じたダヴィッドは、アフリカで香水や化粧品を販売するファミリービジネスをスタートしました。香りの製法と歴史に興味を持ち、独学で進めることに熱心な彼はL‘Artisan Parfumeur(ラルチザンパフューム)に入るとエクスポートマネージャーを任命されユニークな販売方法を見出し頭角を現します。2005年、「インディー」香水ブランドのサポートに特化した会社、Différentes Latitudesを設立。彼は、この分野を牽引するブランドであるBYREDO, Juliette Has a Gun,Atelier Cologne, Memo, BDK Parfums, Liquides Imaginaires, Parfums Frapin, Ella Kの立ち上げに成功しました。2013年にパリ3区にニッチフレグランスの専門店であるパフュームバー「Liquides, bar à parfums」をオープンし、2020年秋に満を持して自身の理念と信念を象徴するブランド「OBVIOUS」を立ち上げました。