SIXIÈME GINZA MAGAZINE 036

自然の中にある美しさから新たな魅力を抽出し解釈する(後編)

Interview with we+

SIXIÈME GINZAホリデーシーズンの空間演出について

今年のホリデーシーズンの空間演出を手がけてくださったwe+のみなさんが、シーズンのテーマである“ニューロマンティック”に対してセレクトされた素材は銅線でした。叩いて加工した銅線は赤褐色に美しく輝き、木の枝のようなフォルムは有機的で柔らかな風合いを持っています。東京の街中にある電線の中身である銅線に込めた想いとは。

Q 素材はどのように決まったのでしょうか。

青木
まずは“ニューロマンティック”というキーワードがあって、さらに装飾的なもの、デコラティブなもの、昔から脈々と受け継がれているルーツと自分の感性を融合させるというSIXIÈME GINZAさんからいただいたコンセプト資料を読みました。自然が持つ有機的な形と人間の手を加える人工的な部分の融合という考え方は、自分たちが普段からやっている自然の中にある美しさから何を抽出して解釈して、どういう形で表現するのかという手法に近いなと感じました。自分たちがいつもストックしている素材の使い方や考え方とフィットするなと思い、スムーズにプランが決まっていきました。

安藤
同時に、クリスマスなどのディスプレイは非常に短期間で終わるものが多く、それが終わった後にすぐに捨てられてしまうことを考えました。丸々3ヶ月かけて作ってきたものが撤収開始1時間後にはゴミになってしまう。それはあまり正しくないものの作り方だし環境的なことを考えると自分たちの活動は果たして正しいのかな、と疑念の目を向けなければならないなと思いました。今回のディスプレイのために選んだこの銅線が面白いのは、すべてが使用済みの素材だということです。街中にある電線の黒いゴムを切って剥くと中から出てくるのが銅線で、それを叩いたものがこれです。ディスプレイが終わった後も100%回収でき、コスト的な負荷も少ないし環境的な負荷も全くない。リユースしてさらにリサイクルされるというサイクルも素敵だなと思っています。ものが作られる背景や全体のストーリーとして魅力的なものに仕上がりそうです。


電線のゴムの皮膜に覆われているので、中身の銅線を回収するとほぼピカピカの新品状態です。今、全国のリサイクル業者さんにお声がけして銅線をかき集めているところです。銅線をトンカチで叩きまくって、青木は腱鞘炎になりました(笑)。かなり騒音が出るので今は別のところで叩いています。展示物が全てリサイクルできるということは今の時代にフィットするし、いいことだね、と話しています。

 


Q 持続可能性ということをいつも意識されていますか?


自然な形で自分たちが綺麗だな、いいなと思うものが、結果的に環境に対して負荷が少ない方法で作ることが出来れば素晴らしいことだと思っています。できる限り、意識できるものは意識していきたいです。全てが環境負荷ゼロにはできないので徐々にではありますが。世界的に、デザイナーのみならず全ての人々が環境保全の方向を見ています。これ以上無駄なものを作ってもゴミになるだけだし、僕らもゴミは作りたくない。いかにゴミではないものを作るのか、ということは考えています。

安藤
僕たちは、クリエイティブ重視でものを作っていますが、そこにサステナブルな要素をすり合わせている感じです。はじめからサステナブルありきでもの作りをすると、どこかに歪みが出てきます。サステナブルを先行させることでいびつなクリエイションになってしまうことを心配しています。きちんと融合させていくことを前提に、どのようなもの作りをして行きたいのかを考えていきたいです。


目の前に現れるものが魅力的でないと、皆がついてきてくれません。まずは美しいものを作る、ということが大前提にあります。それをどう作るのかという段階でサステナブルなものを選ぶことが大切。どう作るのか、を考えることが絶対に必要な時代になってきています。

安藤
人々がコロナで元気がない中で、環境問題などさまざまな問題が出てきています。我々デザイナーは、次のもの作りのあり方を提示する使命があります。今の時代の中で、百貨店のようにいろんな人が集まる場所でサステナブルなストーリーを提示することは意味があることだと思います。デザイナーは、ものを作るだけではなく、作る過程をもデザインしなければいけない役割を担っています。例えば素材のリユースのされ方、製法、展示の仕方もデザインするべきです。


今回の空間演出で参考にした資料のひとつが、ジュリア・ワトソンの「Lo-Tek; Design by Radical Indigenism (先住民族による急進的デザイン)」という写真集で、先住民の暮らしから何を学べるのかをリサーチした本です。世界中の先住民の暮らし、住居やエコシステムがどうなっているのかなどが写真やイラストとともに解説されています。先住民たちは木の枝や葦を生かして柵や家を作っているけれど、これをもし銅線で作ったらどうなるのかなと考えています。先住民たちは、身近な環境にあるものを使って理にかなった作り方をしています。東京というものを一つの生態系として捉えるならば、葦に変わる素材が電線です。先住民が身近にある木や植物を使うのであれば、僕らにとってはそれが電線かもしれません。地場のものであり土着の素材とも言えます。その銅線を僕らの文脈で生かすとどのような形になるのかをホリデーシーズンの空間表現として見せていきたいと思います。

Q 好きなクリエイターはいますか?

青木
佐藤雅彦さんが好きです。幼い頃にスコーンやポリンキーなどのCMを可愛いと思って見ていたのですが、それが人間の行動心理を緻密に計算して作られていたことを知った時に感動しました。ただ同じ言葉を繰り返していただけに見えたのに実はあるルールに則って作られていた。緻密に計算されているのに可愛くて、いやらしさが見えないところが好きです。

Q we+の作品にも、緻密性を感じるものが多いです。細かい計算に基づいているものが多いのではないでしょうか?

安藤
はい。シンプルなものでも緻密性を持って計算し、細かいところにこだわって作っています。例えばDriftという砂鉄の時計も秒針がカクカクと動いているだけのように見えますが、一度進んで少し戻る動きの方が自然に見えるね、とかなり念入りに設計しました。

Drift

青木
いつも、すごい数の実験を繰り返しています。紙を使ったウィンドウディスプレイを手がけた時には、100種類以上の紙を紙屋さんから買ってきて、紙の強度、薄さ、照明の透過性などを複合的に見ながら計算し、オフィスで何度も試作品を作りました。よかったものだけを設置していく地道な作業です。

Q安藤さん、林さんが好きなアーティストは?

安藤
自然を美しく昇華している作風が好きです。アンディー・ゴールズワージー、リチャード・ロジャース、などランドアート系のアーティストですね。クリストも好きです。普段見ているものを、視点をずらしてダイナミックに見せている作品が好きです。


個人的には杉本博司さんが好きです。彼も自然を相手にされていますが、歴史の踏まえ方が素晴らしいと思っています。数十億年前の化石から始まって、日本の文脈、世界の歴史全てを包含して自然のアウトプットを行なうという視点が俯瞰的。まるで神様みたいなものの作り方がいいなと思っています。

 

Q 一流、本物な人とはどのようなマインドを持つ人だと思いますか。そうなるために、どのようなことを大切にすればいいと思いますか?

青木
何事にも飽きないことが大切だと思います。それは童心ともつながることですが、常に周りにアンテナを張って美しいことや面白いことを探していることで、精神的にも健康で、若々しくいられるのだと思います。飽きずに見続けている人が一流だと思います。

安藤
ピュアであり続けること、は上質さの条件だと思います。自分に素直にものを選び、空間を体験するということはすごく重要な気がします。僕らも常にみんなでワクワクしながら面白いね、と言いながらもの作りをする感覚を大切にしています。自然現象の美しさに心を惹かれる気持ちにバイアスがかかり何かフィルターを挟むと、十分に喜びを感じられません。純粋であること、というのが一つのキーワードだと思います。そういう意味では僕らは超純粋かもしれません。日々キャッキャ言いながらものを作っていますし。そういうところは失いたくないと思います。


純粋であることは大切にしたいです。さらに、俯瞰した視点を持ちながら純粋であるというのが最強だと思います。一流な人や尊敬する人は、本当に大切なことは通して行く人。他者との軋轢があったとしても自分の思いを通してその結果いいものを仕上げる人です。そのためには俯瞰視点を持っていなければできません。

安藤
僕たちの作る作品のいいところは、ピュアに童心に帰って面白いと思っていただけるところだと思います。日頃のバイアスを忘れて純粋に目の前のものを楽しんでいただければと思います。

 

インタビュー前半を見る

 

we+(ウィープラス)

リサーチと実験に立脚した独自の制作・表現手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。林登志也と安藤北斗により2013年に設立。産業やテクノロジーの発展によって効率や合理性が追求され、多様性が失われつつある現代社会。そんな状況を俯瞰することで、人と、人を取り巻くあらゆる物事・自然環境の間に親密な共存関係を築くオルタナティブな視点や表現を探究しています。近年は、自然現象の移ろいやゆらぎを可視化することで、人工と自然が融合した新たなものづくりのあり方を模索しており、国内外で自主制作作品を発表。また、日々の研究から得られた知見を生かし、インスタレーションをはじめとしたコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、グラフィックデザインなど、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手がけています。

https://weplus.jp/