SIXIÈME GINZA MAGAZINE 024

“気持ちいいもの”に偏る(前編)

Interview with YOKO YAMAFUJI

各方面でご活躍されているSIXIÈME GINZA世代の方々をお招きし、これまでの生き方や仕事に対する姿勢、一人の女性としてのマインドなどをお話しいただくこのコーナー。今回はSIXIÈME GINZAのMDディレクターを務める佐々木が聞き手となって、ライフスタイルコーディネーターであり、サロン「HEIGHTS(ハイツ)」オーナー YORK.代表の山藤陽子さんにお話を伺いました。

五感を刺激する“気持ちいいもの”を独自の審美眼でセレクトする山藤さん。SCENT(香り)デザイン、ブランドコンサルティング、化粧品の商品企画などを手がけるかたわら、「HEIGHTS」ではパーソナルなカウンセリングも行われています。彼女の柔らかな雰囲気としなやかな感性は、女性たちの憧れ。サロンを訪れるファンは後を絶ちません。山藤さんに、大人の感性の磨き方、美しくあり続けるための秘訣について教えていただきました。

 

手に取って、触れて、感じる

南青山のマンションの一室、アポイント制サロン「HEIGHTS」には、緑溢れる暖かな空間が広がっています。部屋には、彼女が実際に使ってみて気持ちいいと感じた日用品、音楽、アクセサリー、器などがジャンルの垣根を超えて並んでいます。サロンのコンセプトは「日々の延長上にある心地良さを体感し持ち帰ることができる場所」。デジタル全盛期の今、ネットで注文すればその日中に欲しいものが届く利便性追求型の時代だからこそ「検索ワードに入力できないものに、大切なものがある」と山藤さんはおっしゃいます。手に取って体感することが大切、という想いに至ったきっかけは何だったのでしょうか。

「人を介さずにはなし得ないモノとの出会いが大切だと感じています。ふと訪れたお店、お店の人との会話から気づくことは沢山あります。私もある精油との出会いで人生が変わりましたが、そのように日用品や毎日消費するものとの出会いで人生が変わることがあるのです。人とモノとの出会いや、“気づき”になるような場所を作ってみたかったのです」。(山藤さん、以下敬称略)

サロンに並ぶものはすべて、山藤さんが“自分が気持ちいいもの”という軸で選ばれたものですが、それは「暮らしやライフスタイルは様々ですが、人が“気持ちいい”という感覚は共通しているのではないかと思ったのです。女性とか男性とか、どのような人のためとか、何にもカテゴライズされたくない。こうであるべき、など枠にはめたくなかったのです。ただ、自分だけの物差しで“気持ちいいもの”ということだけを考えてモノを集めています。自分の感覚だけを信じて、それだけを発信することに決めました」(山藤)

実際に手に触れて、体験してほしいとの理由で、並んでいる商品はすべてお試しが可能。シャンプーはシャワールームで実際に髪を洗って、ハンドクリームも肌で感じて、食品は試食しながら選ぶことができるそうです。モノを選ぶ時に山藤さんがいつも気をつけているのは「見た目通りで当たり前のものはつまらない。二面性や意外性など、人がワクワクする要素がないと、欲しい気持ちは湧かないですから」。例えば、オーガニックコットンなのにシックな色味でシャープなデザイン、控えめながら存在感のあるガラスのジュエリーなど相反する魅力のあるものに惹かれるそうです。

 

好きなものにとことん偏る

SIXIÈME GINZAのMDディレクター佐々木が山藤さんに出会ったのは5年ほど前。第一印象は?「彼女は、見た目はナチュラルでほんわかしているけれどとても芯が強い。でも強さばかりが目立つのではなく、柔らかさを持っているなと思います。様々なスキルを持っているのに、ひけらかさない。威圧的なオーラはないのに、優しく輝く存在感がある、その理由は何なのだろうといつも考えています」(佐々木)。

芯のある女性だと感じたのには理由がある。「自分の物差しだけでモノを選び、“私のことを好きな方は来てね”という商売をしているところに芯の強さを感じます。マーケティングを超えたところに存在するこのサロンは、ある意味贅沢ですよね。彼女のことを好きな人たちがフォローして、彼女を中心に物事が回っていくところが新しい。自分の感性だけに頼って生きるのは不安だし怖いことですが、それを実行できる強さがあるからこそ皆が憧れてしまうのでしょう」(佐々木)。

山藤さんが、周りを気にせず自分の感性だけを信じる、と決めるまでは迷いもあったそうです。
「この方のために、と誰かを気にしながらモノ選びをしても、結局は売れませんでした。モノが溢れるこの時代、皆さんも様々な商品を見ているし知っている。その中で、自分の好みはなんだろう?と具体化できないでいるのです。だからこそ、私が物差しになることが大切なのかなと思いました」と山藤さん。「自分の好きなものにとことん偏るしかない」という思いに至って“偏る宣言”をして2年。それ以来、着実にお客様が増えているそうです。「誰かのモノの好みのフィルターを通して自分のものを選びたいと思う方が増えてきたのでしょう。審美眼がある方も、膨大な情報量の中で何を信じたらいいのか分からない時代。だからこそ“私はこれが好きですけど、もしよかったらどうぞ”というスタンスでいることが皆さんから喜ばれているような気がします」。

しかし、山藤さんが選んだ超個人的な“気持ちいいもの”は皆にとって気持ちいいものなのでしょうか。「もしかしたら、私の気持ちいいはお客様の気持ちいいとは違うかもしれないけれど、それはそれでいいと思っています。“私なりの気持ちいいって何?”を追求してもっともっと偏りまくります。正直に、怖がらず、人がどう思うかは一切関係なく、自分を信じて偏ろうと。そのかわりに、それがなぜ好きなのか、という理由はきちんと言えるような説得力のあるものだけを置こうと決めました」(山藤)。

周りを一切気にせず、自分の感覚を信じて好きなものだけに偏る。このスタイルを貫くには、日々感性を磨き続ける必要があります。好きなものをなぜ好きなのか、その理由を説得力持って語るには実際に自分で使って、何度も使って、長く愛用することが大切なのだそうです。

 

日常品は、リピートするものだけ

「サロンに並べる日用品は必ずリピートするもの」というのも、山藤さんの大切な基準。「衝動的に買っても一度使ってそのままになることってありますよね。自然と何度も買ってしまうものでないと日用品としては本当の意味で気持ちいいものではありません。私がリピートするほど好きな商品は少ないので、なぜそれが好きなのかを明確にお話しすることができます。パーソナルなカウンセリングをする時には、おすすめです、という言い方はしません。私はこの商品のここが好きなのですという言い方をします。そうすると、私もそういうところが好きとか、そういう見方もあるねと気づいていただけます。もし気に入ったら連れて帰ってくださいね、という話し方をしています」。

商品をおすすめしないのと同じく、こだわることも絶対にしないという山藤さん。自分の好きなものに偏るけれど、こだわらない。その違いとは?
「ブレない軸を持ち、自分の好きなものに偏ることは大切ですが、こだわることは絶対にしたくない。こうでないといけない、日本製でないと、オーガニックでないと、天然素材に限るなど、始めから枠を作るのがこだわり。それが嫌なのです。手触りが良くて気に入ったら偶然にもシルクだった、美味しかったものがたまたまオーガニックだった、という方向性がいいなと思っています」(山藤)。

 

香り(SCENT OF YORK. セントオブヨーク)について

人間の感覚の中で一番敏感なのが嗅覚。思い出が蘇り、気分を高揚させたりリラックスさせたり、“気持ちいい”と感じるキーアイテムとしてHEIGHTSでは香りを大切に考えていて、YORKとして香りをクリエイションしています。山藤さんは、パーソナルなカウンセリングで70種類の精油の中からその時に求める香りを紐解いてオリジナルのフレグランスを調香されています。その人に合った香水はどのように調合されるのでしょうか。「感覚と、その方がおっしゃるキーワードで香りを作るようにしています。精油を嗅いで、これはいい、これは違うという感じで探りながら進めます。ある男性の経営者の方で“場を支配する香りをください”と、自分に自信を与えて場を支配するように持っていく香りのオーダーをいただいたこともあります。なりたい自分、という香りへのアプローチの仕方もありますね」(山藤)。
「自分がリフレッシュする香り、相手を考えてつける香り、二つの側面がありますよね」(佐々木)。
「人は、つけているジュエリーによって一目で判断されるように、つけている香りでも、この人はこんな感じの人なのかしら?と判断されます。だからこそ、表現したい時に使いたい香りと、自分を応援したい時に使いたい香りの2種類があります。でも、自分のためだけにつける香りが、相手に香った時も見せたい自分が表現されていればいいですね。香りには効果や効能もありますが、それだけではつまらないので、その方を表現する香りを作るように心がけています」(山藤)。

近年、消費者の香りの選びかたが変わってきたといいます。「若い頃は“あの人はあのブランドの〇〇”など、皆がファッションのように香りをまとい、私も香水が好きでした。でも今は、ケミカルな香りを否定はしないけれど自分が付けるのはしんどい。私と同じようにそう感じている方は多いはずです。これは、オーガニックコスメが増えて、精油の天然の香りに接する機会が増えて嗅覚が天然の香りに気付いてしまったから。今までは人工の香りを使っていたのに、それが辛くなってきたのです」(山藤)。
ケミカルな香水時代を経て天然精油の魅力を知った今、消費者の香りの嗜好が成熟してきたようです。今秋、いよいよ待望のオリジナルパフュームSCENT OF YORK. がデビューするとのこと。山藤さんが調香したパフューム、感度の高い女性たちから注目を集めそうです。

 

SIXIÈME GINZA世代の審美眼

50代以上は、いい時代を謳歌して一流のものを見てきた世代。佐々木はSIXIÈME GINZAの本質を見極めて選ぶスタイルが、審美眼ある世代にさらに広く受け入れられてきたと感じているようです。「SIXIÈME GINZA世代は50代。色んなものを買って、経験して、審美眼が養われている世代でもあります。自分の欲しいものはコレと選ぶ能力もある。SIXIÈME GINZAもブランドを集めてものを置くのではなく、本質を極めてものを選ぶスタイルのお店です。あそこに行くと楽しくなるものや面白いものがあるよね、という評判が広がってお客様が増えています。“この店では何を伝えてくれるの?”という視点で見て下さっているので、何か新しいものを提案してそこに共感することで買っていただける。そこはSIXIÈME GINZAとサロン『HEIGHTS』の共通点なのかな、と思います」。「そうですね。受け手側のみなさんが成熟してきたからこそ、自身が好きなものを見極めることが出来るのでしょう」(山藤)

お客様が様々な経験をし、円熟してきたからこそ誰かのフィルターを通した軸のブレない“気持ちいい”ものが受け入れられているようです。50代は他の世代より消費意欲と行動力あふれる知的な世代。ブランドよりもモノの本質的な価値を見出し、自分の物差しで判断できる世代だからこそ、何か確固たる提案を求めているのでしょう。

partiality store YORK. POP UP EVENTのお知らせ
8/28(水)〜 9/10(火)
今回、インタビューを伺ったライフスタイルコーディネーターYORK.代表 山藤陽子さんのプライベートサロン「HEIGHTS」にて取り扱いのある、“気持ちいいもの”にまつわるアイテムを中心にセレクトした、POP UP EVENTを開催いたします。是非この機会に HEIGHTSの世界観を体感しにいらして下さい。

 

インタビュー後半へ続きます

 

HEIGHTSオーナー / YORK.代表

山藤 陽子(やまふじ ようこ)

英国オーガニックブランドにてリテール部門の統括を経て独立後「YORK.」を立ち上げる。上質で気持ちいい暮らしと生き方をテーマにブランドコンサルティング、商品企画開発、パフューマーとして施設の空間デザインや舞台演出としての調香も手がける。東京南青山にアポイント制のサロン「HEIGHTS」をオープン、現在に至る。

http://york-tokyo.com/
Instagram @heights_yokoyamafuji